この世に〝接触〟し続けた50年 26日から「祈り・藤原新也」展

1944(昭和19)年、福岡県門司市(現・北九州市)生まれ。東京芸大在学中からアジア各地を旅し、70年代に写真とエッセーによる『インド放浪』、『西蔵(チベット)放浪』、『逍遥游記(しょうようゆうき)』を発表。83年刊行の単行本『東京漂流』はベストセラーに、同年発表の『メメント・モリ』は「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ。」という言葉と写真とともに、センセーションを巻き起こした。その後、米国を起点に西欧へと足をのばし、帰国後は故郷で撮った『少年の港』をはじめ、日本各地にカメラを向けてきた。
大震災直後の東北、コロナ禍の無人の街に立った藤原さん。地球環境の危機、なおも続く戦争や強権弾圧にも言及しながら、自身にとって「祈り」とは、目の前の世界を写真に撮り、言葉に表す行為そのものだという。「疲弊感漂う時代、『祈り』とは神頼みだと受け取られるかもしれないが」とした上で、こう続ける。
「今は〝非接触〟の時代だけど、僕は50年間、風景や動物や人間と何十万回にわたって目と心で〝接触〟してきた。すべてが不思議に満ち、存在自体が奇跡。そういう奇跡を前に、僕は祈らざるを得ない」
メメント・モリ(死を想え)もあれば、メメント・ヴィータ(生を想え)も。写真、絵画、書、映像の計256点。会場には大小サイズもさまざまなプリントが、リズミカルに、意図をもって、力強い書とともに展示されている。
大きな蓮の花があれば、街角の小さな風景も。「現場で見たサイズで再現している」と藤原さん。それは物理的な大きさではなく、あくまで自身がそのとき感じたサイズ感だという。しかも「大きいから重要というわけでもない」と言うから面白い。ぜひ、藤原さんのサイズ感を会場で追体験してみてほしい。
来年1月29日まで。月曜と年末年始(12月29日~1月3日)は休館。1月9日は開館し、翌10日は休館。基本的にオンラインによる日時指定予約制。詳しくは世田谷美術館の公式HPで確認を。