写真家&kudos/sodukデザイナー工藤司のおすすめ写真集4選

意外にもファッションデザイナーより、写真家としてのキャリアの方が長いという工藤。10年ほど前に初めて発表したセルフポートレイト作品が、オランダのゲイカルチャーマガジン『BUTT magazine』に掲載された。それ以降、自身のブランドの撮影を手がけるほか、国内外のDAZED KOREA、i-D、VOSTOKなどさまざまなメディアでも写真を発表している。自身のセクシャリティを公表している工藤は、既存の価値観やジェンダーにカテゴライズされない存在が、境目から揺さぶりをかけることに対してこれまでの価値観そのものを転換させるような特別な意味を感じているという。今回工藤が選んだ写真集は、ゴーシャ・ラブチンスキーの初写真集『TRANSFIGURATION BOOK by Gosha Rubchinskiy』、ラリー・クラークとJWアンダーソンのコラボレーションによって実現した『The Smell of Us』、ヴァルター・ファイファーの『Pfeiffer/Wittwer』、そして彼にとって格別な思い入れがある森栄喜『intimacy』。
「ファッション写真が“ファッション写真”以上のものにはなり得ないという空気感にずっと違和感を抱いていました。もっとさまざまな評価軸があってもいいのではないかと、境目にいるフットワークの軽い人たちに自然と関心が向くようになりました」。工藤は2012年に『TRANSFIGURATION BOOK by Gosha Rubchinskiy』を手に入れた際、ラブチンスキーの存在に大きな衝撃を受けたという。本書は、ロシアの人工島に建設されたスケートパークで撮られたスケーターのポートレイトやローマ彫刻、絵画、ビデオキャプチャされた画像などのイメージによって構成されている。ユースカルチャーとストリートが育んだコミュニティにある無二の雰囲気、一方でその背景にあるソ連とロシアの文化圏を形成した歴史を感じさせる写真は、ファッションデザイナーとしての関心や表現以前に一人の若者の移りゆく目線を追体験させる。
「モデルがゴーシャの衣服を着ているか否かに関係なく、一括りにできない数々の写真にはファッションが成立している。それと同時に、これらの写真で写しだされたあらゆる要素は、ファッションとは何なのかという根底そのものを揺るがしかねない、決定的な危うさとも言い換えられるのではないか、とも感じました」。また工藤はこの写真集で、パブリッシャーとして携わっている山﨑潤祐(『FREE MAGAZINE』、現『198201111959』編集長)の存在を知った。「この本に出会ってから、修行先のヨーロッパから日本に帰ったら、まず山﨑さんに作品を見せようと決めていました」。山﨑にコンタクトを取ったことがきっかけで、コレクション作品の展示を始め、ブランド設立への道が切り開かれたという。工藤にとってこの出会いは、現在の活動を運命付ける転機となった。