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詩人アーサー・ビナード:宮沢賢治「やまなし」の奥にはプラトンの哲学がある
2022-07-21
詩人アーサー・ビナード:宮沢賢治「やまなし」の奥にはプラトンの哲学がある

「クラムボン」とは何だろう? 宮沢賢治が1923年4月8日付の岩手毎日新聞に発表した童話「やまなし」で、2匹の子ガニが口にする謎の言葉を巡り、これまでさまざまな解釈が出されてきた。詩人のアーサー・ビナードさんも、同作を翻訳するうえで「クラムボン」をどう訳すか長らく悩み、思考を重ねたという。今春刊行されたバイリンガル絵本『やまなし Mountain Stream』(今人舎)は、世界的なアニメーション作家・山村浩二さんとの8年間にわたるコラボレーションの成果だ。ビナードさんに賢治の作品世界と翻訳について聞いた。
「やまなし」は、長年、小学校の国語教科書に採用されている宮沢賢治(1896–1933)の代表作の一つだ。単純なようで、読み込めばどこまでも深まる。

時は5月。谷川の底でカニの子どもの兄弟が、水の天井を眺め、泡を吐きながら、謎の「クラムボン」についておしゃべりをしている。「クラムボンがわらったよ」「クラムボンがかぷかぷわらったよ」。やがて頭上を魚が通り過ぎる。「クラムボンは死んだよ」「クラムボンは殺されたよ」。そして、「行ったり来たり」しているその魚は、カワセミに捕食され、「こわい所」へ行ってしまう。終盤で場面は12月に飛ぶ。カニの兄弟が吐いた泡の大きさを競っていると、やまなしが「トブン」と落ちてきて、また浮き上がる。熟した果実の良い香りが、水中を満たす。こうした出来事は、全て幻燈が映し出す物語として語られる。
食物連鎖の中の生と死を投影しているかのようなこの不思議な物語を、ビナードさんは「童話」ではなく、「哲学寓話」として捉えている。「プラトンの『国家』にある“洞窟の比喩”という寓話を、賢治は読んだに違いない」と言う。

人間はだいたい自分が現実に触れていると思い込んでいるが、本当は洞窟の奥にいて、つながれた状態で存在している。入り口から差すわずかな光が目の前の壁に映し出す影を現実だと勘違いしているにすぎない―この哲学的比喩を、水面の天井を眺めるカニたちに託して表現したのではないか。そう考えるビナードさんは、英訳絵本のあとがきにこう書いた。

「無限に広がる外の世界からは、時折現実が水面を割って突っ込んでくる。それを不思議がり、怖がり、追いかけたりして語り合い、考えて共有する。」

「水中の彼らと、人間のぼくらと、実際は同次元であることを読者に示すために、始まりと終わりに「幻燈」が据えられる。その明かりと影を見ているだけだよと、賢治は教えてくれているわけだ。」(抜粋)

「『やまなし』が、プラトンの寓話をモチーフにしていると誰も指摘したことはないけれど、間違いないと僕には思えます。賢治が独自の視点で、この寓話に新たな息吹を与え、日本語の普遍的な作品に昇華させたのです」

ソース元URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/c9e3e6a9aa5fc767919057898373838b9eef50a2

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