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寺西ジャジューカ お笑い界の競技化がもたらしたもの――芸人にとって歓迎すべき状況か否か
2022-05-19
寺西ジャジューカ お笑い界の競技化がもたらしたもの――芸人にとって歓迎すべき状況か否か

「M-1グランプリ」などへの注目が年々高まる中、お笑い界にはどのような変化が起きているのか。リアリティーショー化、松本人志の巨大な影響など……フリーライターの寺西ジャジューカさんが読み解きます。
(『中央公論』2022年6月号より抜粋)
 昨年12月26日放送回をもって林家三平が「笑点」(日本テレビ)を卒業した。「実力不足」「回答がつまらない」と視聴者からの風当たりが強かった彼は、5年半の在籍中に座布団10枚を一度も達成することができなかった。野々村真でさえ、「世界ふしぎ発見!」(TBS)で全問正解のパーフェクトを2週連続で達成したことがあるというのに。そう考えると、やはり三平の実力不足は否めなかった……のか?

「笑点」は今、dボタンを使ってメンバーに座布団をあげたり取ったりする視聴者投票が可能な仕組みになっている。今年1月15日放送のラジオ番組「東京ポッド許可局」(TBSラジオ)が三平の卒業問題を取り上げた際、論客としての顔も持つ芸人のマキタスポーツがこんなことを口にしていた。

「あんまり角立てて話したくねえけどさ、dボタンの投票できるんだったらみんなつまんねえ(全員に座布団をあげない)ってことにもなるぜ? そんな尖ったネタなんか必要じゃねえってところになっちゃってるからさ」

 同感である。多くの人は「笑点」にシビアな笑いは求めていなかったし、もっと牧歌的な番組だったはずだ。「M-1グランプリ」(朝日放送)を機に採点式スポーツの如く、バラエティを競技化する文化が主流となっていった。島田紳助が2001年にM-1を立ち上げた際、目的としていたのは「(若手)芸人に辞めるきっかけを与えたい」だった。巡り巡って、三平が「笑点」を辞めることになるとは。
 視聴者や番組制作陣はM-1で何を重視しているか? 芸人の能力は当然だが、それと同等に芸人の持つバックグラウンドに注目している気がする。番組が軌道に乗ると、やたら感動的な路線へ向かいたがるのが紳助だった。「このコンビはバイトでやりくりしながら芸人を続け~」「この芸人は両親から勘当されても夢を諦めず~」など、舞台裏をドラマチックに仕立ててその物語をお茶の間と共有。芸を磨かんと切磋琢磨する若手にフォーカスする“芸人のリアリティショー化”は、そういう意味でM-1が成功した証しなのかもしれない。

 芸人から受ける感動はM-1以前にもあったが、能動的に番組が感動させにいく風潮はやはりM-1以降だろう。他方、その手の演出にいかんともしがたい照れくささを感じる者も存在する。2017年11月14日放送の「爆笑問題カーボーイ」(TBSラジオ)での太田光と田中裕二のやり取りにこんなものがあった。

「俺、ちょっとよくないと思う、こういう傾向。感動路線みたいな? それはお笑いが気持ち悪いことになるだろう、きっと。M-1というのはそれに一役買っちゃってるとこあんじゃん」(太田)、「いいんだけど、まあ気持ち悪いよね(笑)。そういう裏側を……俺は正直、「情熱大陸」とかも嫌だった(太田と田中は過去に、それぞれ毎日放送「情熱大陸」から密着取材を受けている)。お笑いはそういうのから逃げるためにやってるみたいなとこあるからね。感動は誰でもあんだけど、それを隠す。隠したい人たちがお笑いをやってるっていうのがあるから」(田中)

 人間のバックグラウンドを見ることで得る面白さもあるが、それは笑いの面白さとは違う。M-1視聴後、ファンに残る感情は「楽しかった」より「感動した」のほうが遥かに大きいはずだ。M-1ファイナリストの舞台裏に密着した「M-1アナザーストーリー」(朝日放送)を見ればM-1はよりドラマチックになるし、笑いはより崇高なものとなる。

 果たして、芸人側はこの風潮を歓迎しているのだろうか? 浅草を拠点に活動する漫才コンビ、ナイツの塙宣之(はなわのぶゆき)はこんな発言を残している。

「照れますね、単純に。「そんな大したことしてないのにな」という気持ちがないとダメだと思うんですよ、お笑いは宗教でも権力でもないので。だから、僕らの漫才を見て「命救われました」って言う人は、ちょっと大丈夫ですか? と」(NHKEテレ「SWITCHインタビュー達人達」18年5月5日放送)

 もはや笑いの競技化が止まることは考えにくいが、競技化すると決まって感動がついて回ることに辟易する層(芸人ならびに視聴者)は確実に存在する。

ソース元URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/99addc06b29f207e6cae6364c62c7948f15b88f1

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