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「大地の芸術祭 2022」で注目の新作を巡る。河口龍夫からイリヤ&エミリア・カバコフまで
2022-05-01
「大地の芸術祭 2022」で注目の新作を巡る。河口龍夫からイリヤ&エミリア・カバコフまで

 新潟県十日町市と津南町、760キロ平米におよぶ広大な越後妻有地域に300点を超えるアート作品が展示される「大地の芸術祭
2022」がコロナによる1年の延期を経て、ついに始まった。


 最初に向かったのが津南エリア。2015年に旧新潟県津南町立上郷中学校をパフォーミングアーツの拠点として「上郷グローブ座」や、香港との恒常的文化交流を目指して建てられた滞在制作施設でギャラリーでもある「香港ハウス」などが建つエリアだ。竜ヶ窪温泉「竜神の館」地下のゲートボール場が、かつてカイカイキキに在籍経験もあり、「廃材再生師」を名乗るアーティストの加治聖哉の手で水族館になった。地域の工務店や製材所で不要となった木材が、イワシの群れとそれを捕食しようとするサメ、その光景を見据えるタカアシガニの姿になった。


 「苗場山」の銘柄が地酒として知られる苗場酒造でも展示が行われている。切り紙をベースに、映像プロジェクションなどを組み合わせたミクストメディア作品を手がける早崎真奈美が出品。その緻密な切り絵に表現されているのは、酒蔵で顕微鏡を通して見える細菌の世界。各地からの客人が多い苗場酒造には、古くから客をもてなすための陶磁器などが収蔵されており、それらを用いてサイトスペシフィックなインスタレーションが完成した。



 十日町エリアに移動する。築100年を迎える茅葺き屋根の古民家が、1階は地元のお母さんたち(親しみを込めて皆からそう呼ばれている)の手で地産地消を実践するレストランとなり、宿泊もできる「うぶすなの家」として生まれ変わったのは2006年。2階にある茶室で展示されているのが、布施知子の《うぶすなの白》だ。「うぶすなの家」に宿る精霊のようなものに対する尊敬を、白い紙を折ることで表現した。空間の精霊と、白い造形の神聖さが空間で厳かに響き合う。


 昼食後に向かったのは、旧上新田公民館。1階には大工棟梁で木造建築を行った田中文男の蔵書を収蔵した地域文庫があり、2009年にカン・アイランが光る本のインスタレーションを制作した。2階に上がると、河口龍夫の新作インスタレーション《農具の時間》が展開する。使用されているのは、地域の農夫たちがかつて使用し、納屋に眠っていた農具の数々。そこに種子を植えつけ、農夫の作業姿をトレースして吊るされた。地域に息づく農業の歴史が、黄色い空間の色に表現された未来への希望とともに受け継がれていく。


 「十日町市利雪親雪総合センター(旧みよしの湯)」では、ロンドン芸術大学でファッションとテキスタイルデザインを学び、「日常から生み出される非現実的世界」をコンセプトに制作を続ける井橋亜璃紗が作品を展示。十日町市の豊かな自然にインスパイアされた彼女は、過去から現在までの「十日町市の自然」をテーマに写真を集め、テキスタイルプリントにしてかつての温泉で休憩室や宴会場として使用されていたであろう大広間の空間を彩る。


 十日町エリアの市ノ沢集落では、空き家となった古民家に椛田ちひろがインスタレーション作品《ゆく水の家》を制作。「流れ」を描いた障子紙の裏から光が明滅し、床面にはその反射から川の流れが浮かび上がる。会場脇の古い神社である「十二社」では、集落の人たちが「大地の芸術祭」への来場者をもてなす思いを込めて、参道階段前の大木に銀の着物を着せていた。地元の人々の積極的な関わりが感じられる。



 十日町エリアの七和地区は、さまざまな集落や市街の出身者が集まったニュータウンでありながらも、住民たちの結束力が強い地区だ。その中心となっている「七和防災センター」を会場に、深澤孝史が雪かきに欠かせないスノーダンプを使って《スノータワー》を制作した。

 十日町エリアの「越後妻有里山現代美術館[キナーレ]」が昨年、改修工事を完了し、新たな常設作品を展示する「越後妻有里山現代美術館 MonET(モネ
Museum on Echigo
Tsumari)」となった。名和晃平や目[mé]、中谷ミチコなど日本の次世代作家に加え、イリヤ&エミリア・カバコフ、ニコラ・ダロなどの作品が加わったほか、会期中には、「大地の芸術祭」への参加作家でこの22年の間に亡くなってしまった作家を偲び、「追悼メモリアル」と題する企画展示を2週間ごとに開催。コロナ禍で活動が制限され、また民主主義を脅かす侵略戦争がウクライナで勃発したこの時代において「声をあげるアーティストに制作と発表の場を提供することが芸術祭を主催する人間の使命」だと語る総合ディレクターの北川フラム。


 ウクライナ出身の作家ジャンナ・カディロワは、3月に戦火のキーウからウクライナ西部の山間の村に避難し、川で石を集めてパンのオブジェを制作し、ギリギリのタイミングで会場に届いたという。そうした各地のアーティストとのネットワークは、「大地の芸術祭」の継続を支えてきた重要な要素なのだと実感できる展示が、館内に展開する。


 最後に向かったのが、松代エリア。2000年に制作されたイリヤ&エミリア・カバコフ《棚田》や、2003年に建てられた「農舞台」など、「大地の芸術祭」を象徴するビジュアルが多いこのエリアに、イリヤ&エミリア・カバコフが新作《手をたずさえる塔》を2021年末に手がけた。インスピレーションとなったのは、ホイジンガの著書『中世の秋』に描写された町に響く鐘の音。中世のヨーロッパの街には何箇所にも鐘が設置されており、その響きを通してどこで幸せな出来事があったのか、不幸があったのか、ということが共有されていたのだという。つまり、街の気分が鐘の音に表現されていた。カバコフ夫妻は、《手をたずさえる塔》を照らすライトの色が、世界に幸福な出来事があるときには黄色く、不幸や悲劇の際には青く変わることで、世界の気分を共有しようと考えた。当然現在は、戦争が起こっているから青い。この塔が黄色く照らされる日も必ずやってくるはずだ。


 これまでは夏に開催されてきた「大地の芸術祭」だが、今回は初めての試みとして4月から11月にかけて145日間におよび開催される。コロナ禍で密を避けるという目的がひとつあるが、四季で異なる表情を見せる越後妻有の自然を味わってほしいという地元の想いが込められている。夏に向けてさらに新作が増え、また作品によっては春・夏・秋と異なる印象を与えるものもある。豊かな自然に裏打ちされた「大地の芸術祭」だからこそ、季節ごとに複数回足を運びたくなるはずだ。

ソース元URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/19aaabb25c9e190ad708a32030d99755268cc9d0

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