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【書評】西側の原爆開発計画を盗んだソ連の女性スパイ:ベン・マッキンタイアー著『ソーニャ、ゾルゲが愛した工作員――愛人、母親、戦士にしてスパイ』
2022-07-24
【書評】西側の原爆開発計画を盗んだソ連の女性スパイ:ベン・マッキンタイアー著『ソーニャ、ゾルゲが愛した工作員――愛人、母親、戦士にしてスパイ』

滝野 雄作
英国の片田舎でひっそりと暮らしながら、米英の原爆開発計画をソ連に流していた主婦がいた。彼女はあのリヒャルト・ゾルゲに見いだされ、スターリン時代の粛清を生き抜き、西側に捕らえられることなく天寿をまっとうした稀有なスパイである。本書はそんな彼女の生き様を克明に綴った伝記であるが、読者はその波瀾万丈の人生に圧倒されることだろう。
膨大な資料と取材をもとにした本書は、登場人物の人間像やそのときの心理に深く分け入った、物語性豊かなノンフィクションになっている。

ソ連軍情報部(GRU)の女性スパイ、暗号名「ソーニャ」ことウルズラ・クチンスキー(1907~2000年)の最大の功績は、英国で原爆開発に深くかかわっていた物理学者クラウス・フックスを操り、すべての情報を吸い上げモスクワに逐一報告したことである。これにより、ソ連の原爆開発は急ピッチで進み、1949年8月、最初の核実験に成功する。それは「事実上アメリカの原爆のコピー」であった。以後、米ソ両超大国は、核の相互抑止のもとで睨みあうことになるのだが、彼女の果たした役割は現代史をおおきく左右するものだったといえるだろう。

一九二四年五月一日、ベルリンの警察官がゴム製の警棒で一六歳の少女の背中を激しく殴打し、それによって革命家をひとり生み出した。

少女とは、のちにソ連のスパイとなる若き日のウルズラである。当局が労働者の祭典メーデーのデモで、共産主義者を弾圧する光景から始まる本書は、年代を追って彼女の生涯を辿っていくことになる。
冒頭で記したが、ウルズラのスパイ活動の最大のヤマ場は、英米の原爆開発計画に関連する情報収集だった。それはドイツがソ連に侵攻したのちの1942年から43年にかけてのことである。本書の記述とは順序が逆になるが、先に彼女の後年のスパイ活動から紹介してみよう。

ウルズラは、ドイツ系ユダヤ人でそれなりに豊かな中産階級の出身だった。父親は著名な人口統計学者であり共産主義のシンパ、3歳年上の兄ユルゲン・クチンスキーも、のちに左派系の経済学者となり、共産党員だった。彼らはナチの迫害が激しくなると英国に亡命。1941年2月、ウルズラもまた、夫婦でスパイ活動をしていたスイスから、身の危険を感じて英国に逃れていた。

1942年夏、ウルズラはクラウス・フックスと接触を開始した。ドイツ出身のフックスは父親の影響を受けた共産主義者で、ドイツ共産党に入党。大学で物理学を学んでいたが、ナチの弾圧を受け、1933年に英国に渡った。その後、物理学者として頭角をあらわし、1941年6月から政府が極秘に進める原子爆弾開発プロジェクトに参加していた。それがなぜ、ソ連のスパイになったのか。

フックスは、見かけこそ浮世離れした学者先生だったが、心の中では昔と変わらぬ熱心な共産主義者であり、猛烈な反ファシズム派だった。

1941年、ヒトラーはソ連に侵攻したが、ともに戦っているはずの英国は、原爆開発をソ連に知らせていない。著者は、フックスの言葉を引用してこう記している。

「私は自分をスパイだと思ったことは一度もなかった(略)なぜ西側が原子爆弾をソ連政府と共有しようとしないのか(略)あれほど圧倒的な破壊力を持つ物は、すべての大国が平等に利用できるようにすべきというのが、私の考えだった」

「私は共産党の別の党員を通じて連絡を取った」

ソース元URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/e23d3a6fdf48e2b446f0c311f6f98e4f3c8eb114

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