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今村裕の一筆両断 「システム」「制度・構造」で子供を支援できるのか 「改訂版 生徒指導提要」への疑問
2022-10-23
今村裕の一筆両断 「システム」「制度・構造」で子供を支援できるのか 「改訂版 生徒指導提要」への疑問

落合博満氏はプロ野球現役中には三冠王3回の実績を持ち、中日ドラゴンズの監督としても、8年間で4回のリーグ優勝(日本一が1回、2位が3回、3位が1回、すべてAクラス)をするなど、指導者としても驚異的な成績をあげています。その落合氏が中日ドラゴンズの監督を引き受けるときの記者会見で、「この1年は補強を凍結し、個々の選手の能力を10%底上げして日本一を獲る」と、トレードなどの補強を凍結することを公言し、実際に監督1年目でリーグ優勝を果たしました。

学校教育や学校カウンセリングについて「一筆両断」したい筆者が、落合氏のエピソードから書き始めたのには、いろいろ考えた背景があります。

文部科学省は12年前(平成22年3月)に発刊した「生徒指導提要」の改訂版を今年8月にまとめました。これは教員向けの手引きです。発表された改訂版の案(以下、「改訂版」)の内容を読み、いろいろな考えが浮かんできたので記述したいと思います。

「改訂版」の特徴は「多様な背景を持つ児童生徒」への対応を細やかに表記したことにあります。たとえば、「発達障害」「精神疾患」「健康状態」「家庭を含めた生活環境」などが、これまでにも記述があった「いじめ」や「不登校」などに加えて別に章立てが行われていることです。

「発達障害」を特徴とする子供の変化への学校の対応を具体的に述べようと努力している点は大きく評価できます。そして、最も大きな変更点は生徒指導を「2軸3類4層構造」という新しい用語で構造を説明。さらに「発達支持的生徒指導」や「重層的支援構造」という新しい用語を使い、これまでならば教師と子供の直接の関わりを主な戦力としていたものを「構造」や「システム」によって支援しようとする点です。

ところで、落合氏のエピソードから書き始めたのは、今回の「改訂版」には学校の教員一人一人の力量アップに注目が及んでいないか、軽視しているとしか見えてこなかったからです。

スクールカウンセラー(以下、SC)の導入に象徴されるように、学校での生徒指導に関して不登校やいじめなど社会問題化への対応として、学校外部からの戦力投入と、「チーム学校」という用語のもと、学校の組織力を上げることで、学校の生徒指導をはじめとする力量アップを図る方向で歩んできた背景と歴史があります。

そもそも学校は、組織として機能する教育機関です。組織としての学校を軽視する教師個人のスタンドプレイを、「学級王国」という言葉で皮肉を込めていさめてきた歴史があるくらいです。

弱い野球チームを強くするためには、さまざまな方法があるのでしょうが、まずは個々の選手の力量を上げることが第一歩になるはずです。元々の力がない選手ばかりのチームでは、いくら組織を変更しようが、システムを刷新しようが、野球のチームとすれば強くはなりません。どんなに斬新な作戦を立てようが、奇抜な戦法で試合に臨もうが負けてばかりでしょう。高校野球などでは、まずは部員のあいさつなど生活態度の指導から始めるでしょう、米大リーグで大活躍の大谷翔平選手は「ゴミ拾い」で心を育てることが野球選手の第一歩であるという話をしています。つまり、選手一人一人の力量がチームの強さの基盤だということでしょう。

さて、今回の「改訂版」の作成にあたって、最も重きを置いて書かれている内容は「生徒指導の重層的支援構造」という用語に代表される、組織的、システムによる子供への対応です。「いじめ」にも「暴力行為」にも「児童虐待」にも、そのほか「多様な背景を持つ児童生徒」にも、すべて「重層的な支援」で対応するという書き方がなされています。

子供への対応は一人一人違います。その違いを見つけ出し、実践するのが教員一人一人の力量の表れでしょう。マクロな視点から見れば「重層的な支援」は大事でしょう。しかし、学校で起きている生徒指導への対応場面では、子供にとっても教師にとってもその支援構造の解説だけではあまり役に立ちません。

改訂前の「生徒指導提要」(以下、「旧版」)に記載されていて「改訂版」で重きを置いていないのは、教員の「教育相談」に関する内容です。「教育相談」を「個に対する対応」と位置付け、「生徒指導」を「主に集団に対する指導」と「旧版」では説明しています。

「旧版」でも、教育相談体制を構築することに重きを置いていますが、まだ教師個人の教育相談の研修内容が丁寧に記述されていました。もちろん子供一人一人を見る視点や技術も、SCが持つ臨床心理学を基盤にした専門性と、教師の教育学(学校教育学)を基盤にした専門性とは質が違います。

落合博満氏は選手個々の力量を上げることをチーム作りの基盤におきました。つまり、それは選手の個性を信頼して活かすことにつながり、上記のような成績をあげました。今回の「生徒指導提要」の「改訂版」では、一人一人の教師(個々の選手)の力量に信頼を置いていないのではないかと心配になります。教師の「教育相談」研修をもっと具現化してもらいたいものです。もちろん、教師のみで学校は安定した運営ができないくらい子供たちや保護者を含め社会が変化しています。だからこそ、個々の教師の力量アップをめざし、その力量に信頼を寄せて、「改訂版」が目指す生徒指導が行われることを期待したいと思います。

◆いまむら・ゆたか 昭和31年、福岡市生まれ。福岡県立城南高校、福岡大学、兵庫教育大学大学院修士課程、福岡大学大学院博士後期課程。公立小学校教諭、福岡市教育センター、同市子ども総合相談センター、広島国際大学大学院心理科学研究科、大分大学大学院教育学研究科(教職大学院)を経て、現在開善塾福岡教育相談研究所代表。純真短期大学特任教授。公立学校スクールカウンセラー。臨床心理士、公認心理師。

ソース元URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/a103430922e15fbb75ad985042e13658288982e9

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