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木島櫻谷、その山水画の世界へ。泉屋博古館東京で特別展
2023-06-03
木島櫻谷、その山水画の世界へ。泉屋博古館東京で特別展

 近代の京都画壇を代表する存在として近年再評価が進む日本画家・木島櫻谷(このしま・おうこく、1877~1938)。その特別展「木島櫻谷─山水夢中」が、東京・六本木の
泉屋博古館東京で開幕を迎えた。担当学芸員は実方葉子(泉屋博古館学芸部長)。会期は7月23日まで。


 櫻谷は明治後半から昭和前期まで、文展帝展で活躍した京都日本画壇の代表的存在。京都画壇の重鎮・今尾景年(1845~1924)に写生を学び、徹底した写生を基礎に、卓越した技術と独自の感性によって叙情的で気品ある画風の作品を数多く生み出した。京都の伝統を継承しながら、西洋画の要素をも取り入れたスタイルが大きな特徴だ。


 とりわけ親しみやすい動物画で知られる櫻谷だが、山水画も生涯描き続けていた。本展は、その櫻谷の山水画に着目した展覧会となっている。



 展示は「写生帖よ!─日本の海山川を描き尽くす」「光と風の水墨─写生から山水画へ」「色彩の天地─深化する写生」「胸中の山水を求めて」の4章とエピローグから構成。


 櫻谷は20代から30代にかけ、頻繁に写生旅行に出かけていた。櫻谷文庫には現在、わかっているだけでも600冊に及ぶ写生帖が収蔵されているという。第1章では、この写生帖のなかから厳選された大判風景写生がずらりと並ぶ。櫻谷が夢中になった古き良き日本の風景は細かな部分まで丁寧に描かれており、作品には及ばないサイズながら、それに匹敵する完成度と迫力を感じられるだろう。



 こうした日々の写生で得た景観表現は、20代から作品に取り入れられていく。その集大成が、第2章に展示されている6曲1双、幅11メートルの大屏風《万壑烟霧(ばんがくえんむ)》と、東京で初公開となる南禅寺塔頭・南陽院本堂の山水障壁画(展示替えあり)だ。


 両作とも、部分的には写生した実際の場所をモチーフとして描いているものの、全体としては櫻谷の想像上の風景となっている。櫻谷にとって写生はそのまま作品となるものではなく、一度自分の中で醸成し、やがて立ち上る姿を作品として描き出すものだという。日本の風景を採り入れた、「リアルな山水画」を堪能してほしい。

 櫻谷のなかで醸成された景色は、さらに変化を遂げていく。シンプルな表現と色彩がその特徴だ。例えば第3章の《寒月》(展示期間:~6月18日)を見てみよう。


 雪が積もった竹林に1頭の狐、そして空に浮かぶ月。月夜の鞍馬で残雪にのこされた獣の足跡を見た経験から生まれたというこの代表作は、一見水墨画のように見える。しかし実際は雪には白の胡粉が、空にはシルバーグレーの絵具が、丈には群青や緑青が使用されており、ざらついた質感と輝きが作品に一層の奥行きをもたらし、鮮やかさを与えている。


 幼い頃より漢詩に親しみ、また古画を愛した櫻谷は、次第に中華文人の理想世界を日本の風景に移し替えたような、親しみやすい新感覚の山水表現に至る。50歳前後で公職からひき、自邸で文人のような暮らしを実践していた櫻谷。


 1931年、55歳のときに描かれた《画三昧》は、そんな櫻谷の暮らしぶりを想像させるものだ。画架を眺めるのはひとりの質素な袴姿の老人。手には制作前のあたりを取るための木炭を持っており、目の前には真っ白な画面があることがうかがえる。画題にある「三昧」とは、「雑念を去り没入すれば、対象の姿がとらえられる」という禅的な観念を示すものであり、本作はこれから山水を描こうとする櫻谷の制作への決意が滲み出るものだ。


 櫻谷は《画三昧》の2年後、57歳で最後の帝展(第14回)に作品を出品した。それが、本展ハイライトのひとつである高さ2メートル超えの大作《峡中の秋》だ。青年期の写生に由来する実在感はそのままに、全体の構想はより大きなスケールとなっており、古来文人が重視した筆墨(墨線そのものの魅力)を追求するものだ。険しい秋の岩山は柔らかな筆致で描かれ、そこを一筋の滝が流れ落ちる。柔らかさと迫力を併せ持つこの作品は、最後の帝展を締めくくるのに相応しい作品だと言える。


 写生から始まり、青年期に訪れた各地の風光と、詩書画を通じて交わった先人たちの理想世界とが渾然一体となった世界へとたどり着いた櫻谷。その目が見つめ続けた風景を、追体験してほしい。

ソース元URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/08273f5c9365c9d31db57c8d7f1a556f1ece96eb

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