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「昭和の映画館」高知で健在 ネット配信時代に守り続ける理由
2022-04-27
「昭和の映画館」高知で健在 ネット配信時代に守り続ける理由

 「最近映画を見ましたか? どこで見ましたか?」 この問いに、多くの人は複数スクリーンのあるシネコン(複合映画館)やDVD・ブルーレイ、ネット配信と答えるだろう。どっこい、高知では「昭和の映画館」2館が健在だ。映画の鑑賞方法が広がる中、映画館という「場」を守るために苦闘する人は何を思うのか、話を聞いた。【小林理】

 高知市から東に車で約1時間半。高知県安田町の清流・安田川沿いをたどって同町内京坊の「大心劇場」(84席)を訪ねると、館主の小松秀吉さん(70)が「遠いところを」と迎えてくれた。大心劇場は父が同町内で1954年に開設した映画館を近くに移築し、82年から営業している。館内の壁には、戦後を彩った人気スターが出演した名作のポスター約200枚がびっしりと貼られ、「昭和の映画館」の雰囲気を醸し出している。

 小松さんは幼いころから、父の映画館で過ごした。家族連れや昼のきつい仕事を終えて夜に来る人の姿を見て、地域にとって映画館は貴重な楽しみの場だと体感した。70年代以降、テレビの普及で観客が減少しても、シネコンが近年増加しても、映画館をやめることは「考えたことない」という。「映画館って、あって当たり前だと思ってたからね」

 小松さんは、来場者が少なくて苦しい時も「1人でも来てくれれば上映する」と言い続けてきた。「映画館は、来れば楽しいことがある『玉手箱』みたいなもんだ」。現在は月1~2回、時代劇や青春もの、恋愛ものなど昭和の名作を中心に1週間上映している。半分はフィルム上映で、父を見て学んだリールの切り替え作業は今でも緊張する。最近ではSNS(会員制交流サイト)を見て、県外からの来場者も少しずつ増えているという。国道沿いに置く看板も手作り。若いころ、近くの映画館に見に行くなどして独学で習得した。「こういう作業を自分でやってるから続けられる。人を雇ってると厳しいと思う」と小松さんは話す。

 29日から5月7日までは、70年公開のイタリアの名作「ひまわり」を上映する。ウクライナで撮影されたひまわり畑が登場するため、ロシアによる侵攻に抵抗を続けるウクライナ支援の気持ちを込め、全国で上映の輪が広がっている。「映画館で上映するために作られた作品だから、ぜひ映画館で見てほしい」と小松さん。「上映が始まる時には戦争が終わっていてほしいと思ってたんだけど」と、明るかった表情がこの時だけは曇った。収益の一部はウクライナ支援のため寄付される。

 ◇インドネシア出身の映画館主も奮闘

 高知駅から徒歩10分の高知市愛宕町1にある「高知あたご劇場」(150席)は55年の開館。昨年10月、2代目館主の水田朝雄さんが72歳で亡くなり、存続が危ぶまれたが、水田さんの弟の妻、水田サリーさん(42)が運営を引き継いだ。10年ほど同館のスタッフを続けてきた西川泉さん(51)と共に上映を続けている。

 インドネシア出身のサリーさんは、初めてあたご劇場に行った時のことを鮮明に覚えている。「義母に『見ていって』と言われて席についたら、インドネシアでは見られないような映画だった。面白くて最後まで見ました」。その後も時々運営を手伝い、映画館で名作を鑑賞する楽しさと魅力を実感した。朝雄さんの死去に際して、「雰囲気のいいすてきな街の映画館。家族の思いが詰まっているから、絶対にやめたくない」と運営を引き継いだ。ただ、コロナ禍のため入場者はなかなか増えず、建物の維持やコスト高など経営環境は厳しい。「新しい人に訪ねてもらい、これまで来てくれた人もぜひ戻ってきてほしい」と、SNSで積極的に発信したり、上映作品を見直したり、改善に苦闘している。取材中、何回も「絶対にやめない」と繰り返し、思いの強さを感じた。

 ◇安藤桃子さん「映画館、残ります」

 高知市で映画館「キネマM」を運営した経験がある高知県在住の映画監督、安藤桃子さん(40)に映画館への思いを聞いた。

 映画館は人の魂を映し出す装置です。100人見れば、100個の感想がある。「面白かった」「分からなかった」「もやもやしている」というそれぞれの思いこそが映画です。単に作品があるだけでは駄目で、見る人がいて初めて、映画になるのです。だからこそ、映画を作りたいと強く願う人がいる限り、見せる場はなくなりません。

 映画の見方に上下はありません。シネコンでも街の映画館でも配信でも、それぞれに良さがあります。ただ、映画というメディアを愛してきた立場から言えば、思いついた時にすぐに入れる街の映画館は、たくさんの人たちと一緒に「お宮さん」のように大切にしてきた場です。真っ暗な中で過ごす2時間は、見た人に必ず何かを残す。たとえ居眠りしても、記憶の底には映画が残っているはずです。

 映画で感情を揺さぶられた人は、きっと次の世代に引き継いでいく。作る人、見る人、そして映画館で見せる人。人の心がなくならない限り、映画と映画館は残ります。それはまったく心配していません。

 ◇独自性愛され、四国各県に健在

 シネコンではない「街の映画館」は四国各県でも減っている。その中にあって、香川県では、戦後まもなく開館した映画館が前身の「ソレイユ」(高松市)が健在。愛媛県では松山市中心部で1994年開館の「シネマルナティック」(現在の施設は2005年開館の2号館)がアート系作品の上映に力を入れている。徳島県ではアニメ映画などを上映する「ユーフォーテーブルシネマ」(徳島市)が2012年から営業を続けている。どこも独自性でファンの期待に応えながら映画館の灯をともし続けている。

ソース元URL:https://news.yahoo.co.jp/articles/67d896cc68019aa9e18c7fda5597ba91c8138437

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