【今週見るべき展示会】森村泰昌の秘蔵のインスタント写真やオノデラユキの新作など

「道後温泉といえば日本最古といわれる由緒ある温泉ですし、オファーをくれた松山の若いスタッフからもメールの段階から尋常ではない熱意が感じられて、少し面食らいながらも光栄で、二つ返事でお受けしました。でも、よくよく考えるとこんなに大きな規模のものは手がけたことがなくて、展示期間も工事が終わるまで3年間と長い。僕はいつもスケッチも下絵もプランもつくらないので、うまくいけばいいけれど万が一駄作を作ってしまったら…と心配でどんどん寝付けなくなって。漠然とテーマだけは道後に湧き続ける湯と宇宙の摂理の関係から“エネルギー”と決めて、最初は絵の具で描いたりもしていたんですけど、最終的に『今回はちぎり絵だな』と。というのも、いったん貼った後でも剥がせて、その跡がまた味になったりもする。絵を描くにもパソコンを使う人も少なくない時代でもあるし、ハサミやカッターといった道具も極力使わず、『初心に帰って指先だけでいこう』という想いもあって、30~40cmの紙を用意して様々な色を塗っていくことから始めました」
一枚一枚の自家製の色紙はベタッと貼らず、あえて二カ所くらいを木工用ボンドで留めることで、紙と紙の間が浮いているような感覚にしたかったという。目指したのは色が“貼って”あるというより、そこに色が“置いて”あるような仕上がり。5面を覆うちぎり絵はイメージを変えて、東面には道後の街からもその頂を眺めることができる、西日本最高峰の石鎚山。市街地からやってくるとまず目に飛び込んでくる車道沿いの南面には、最初に道後温泉を発見したとされ、宇和島でもよく見受ける白鷺。さらに北面は湯の波紋やエネルギーが街に流れて繋がっていくようなイメージを。商店街のアーケードと向かい合う西面はそのまま活気あふれる街や地図を表現。そして屋根には神羅万象を覆う宇宙をイメージし、太陽や月、地球を描いた。
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道後のシンボル白鷺を表現した南面を背景に立つ大竹伸朗。黄と黒の部分のちぎり絵だけは、アトランタ五輪を記念して現地で製作した作品集『ATlanta 1945+50』(1996)に使ったビルボード紙を使うことで、街中のポスターのようなポップさを加味した