知られざる仲條正義が詰まった口述自叙伝。

一方、文字の扱い方もカレンダーを例に語っている。
「基本的に数字部分の文字の比率は同じで、ポスター・サイズの寸法の中に収まっていくように、文字を組みながら行間を調節していった。ポスターの寸法は変えられないので、あとは周りの縁の幅で調節するくらいしかないように思えるだろう。でも、そのなかで組み方を始めると、ひょいひょいとうまくいく場合もあるし、何をやってもダメな場合もある」
成り行き任せのような手法は、小泉今日子の写真集でも。
「日本語と英語はまったく違う言葉だから、ふつうならこんな馬鹿なことはしないだろうけど、日本語のほうから先にできたのか、英語のほうからだったのかよく覚えていないし、どういう流れで思いついたのかも記憶にない」
コンペで初採用された企業ロゴが〈松屋銀座〉だ。
「本来は『松屋』だけなのに、僕は『銀座』と勝手にくっつけて『MaTSUYa GINZa』というロゴをつくったんだ。当時僕は、どうせコンペなんか通らないと思っていたから、勝手にやったわけ」
そして、鮮やかな配色について。
「色味については、正直に言えば、バキッとした原色が好きだね。(中略)僕がデザインした資生堂パーラーの袋やパッケージは、シアン100パーセントを使っているから。かそけき微妙な美しさというのは、多くの人に『いいよね』と思ってもらえても、その一瞬で通り過ぎてしまい、じつは世の中に広く長く伝わりにくいんじゃないか」
この言葉通り、仲條の表現は今なお後世に残る強度を備えている。